小説の改行とは?
小説の改行は、読者に読みやすさを提供し、ストーリーの魅せ方を左右する重要な要素です。意図のある効果的な改行は、物語にテンポを作り出し、キャラクターの会話や心情を際立たせることができます。この記事では、改行の基本ルールとその応用テクニックを紹介し、小説内でのセリフの扱い方をわかりやすく解説します。
改行する目的は?
改行の主な目的は、テキストを読みやすくし、ストーリーの流れを明確にすることです。特に複数の登場人物が居合わせる場面のセリフでは、キャラクター間の会話を自然に表現するために改行は不可欠となってきます。
その他にも、感情の強調やシーンの変化を示す手段としても使用されます。
小説で改行するタイミングを解説
世の中には読みやすい小説とそうでない小説のどちらもが存在します。筆者は睨めっこするように読まなければならない小説は中々読み進められないのですが、そのようなものは文章が冗長であったり、改行がうまくはさまれていないことが多いと感じます。
改行するタイミングは作品の読みやすさに直結します。言うなれば物語の脈動を決定づける重要な要素の一つです。ここでは、小説での改行が特に重要となる瞬間をいくつか紹介します。
文章の流れが変わる時
小説内で場面が切り替わる際や、ストーリーの流れが大きく変化する時には、改行を活用して読者にその変化を明確に伝えましょう。これにより、異なるシーンや展開への移行をスムーズにし、物語の理解を深めます。読者に没入感に浸ってもらうためにも、文章の流れは適切に区切らなければなりません。
場面が変わる時
改行が最もよく使われるのは、場面転換のタイミングでしょう。最も一般的なタイミングです。物語が進行している場所・時間軸と異なる時間や場所にシーンが移る時、改行はその移行を読者に明示し、物語の流れを自然に導きます。
実際に筆者が即興で執筆してみます。途中で改行を挟みますので「もしその改行がなかったら……?」と考えてみてください。十中八九、戸惑いが生じるはずです。
太郎にとっての殺しは、『目玉焼きに塩をかけるかソースをかけるか論争』のようなものだ。違いはどのような味を演出するかでしかなく、目玉焼きそのものを胃へ運ぶことに何ら躊躇いはない。きっとこの世の誰もが首を縦に振るだろう。
「うぐぅ……い、命、だけ、は……ッ!」
だから、太郎は脳内で論争を繰り広げている。
眉間に刻まれたしわと顎に当てた手は、決して目の前で命乞いをする男への同情などではない。
(銃にするか、それともバールにするか……いっそ拳もありだろうか)
逡巡する太郎を前に、床に崩れる男は一瞬安堵の表情を浮かべるが、次の瞬間。
太郎の口が三日月に裂ける。男は恐怖に崩れていたが、その内心では安堵も抱えていた。
はつねの即興執筆です。
なぜなら、眼前で立ち尽くす暗殺者は、もう五分もこうして考えているから。
(も……もしかしたらコイツにも良心がある……のか!?)
ならば男の取る選択は一つしかなく。
「うぐぅ……い、命、だけ、は……ッ!」
血の塊を吐きながら、彼は懸命に声を張り上げる。
しかし、眼前の男の表情は変わらない――そう思っていた時だった。
「悪いな。俺はお前さんが期待するほど善人じゃあないんだ」
「‼ そ、そんな……! だって今の今まで――!」
すちゃり、と構えられたのは黒鉄の銃口。45口径の小さな穴が男を睨む。
「同情が何かの役に立つことなど絶対にない。傷ついた心は戻らないだろう、いずれにしてもな」
ダンガンバン‼ と軽快な発砲音が炸裂する。
男は、そして。
セリフと地の文が切り替わる時
キャラクターのセリフと地の文(説明文)が切り替わる際の改行は、会話と物語の背景を明確に区分する役割を持ちます。これにより、登場人物の発言と物語の進行が読者にとって理解しやすくなります。
ただし、こちらはあくまでも原則です。作風や作家さんの好み、あるいはセリフの後にそのまま続けた方が良い場合は改行がなされないこともあります。あくまでも好みの問題であるということは念頭に置いておくと良いでしょう。
こんな感じです。
「パパの恨みだッ!」少年は死に物狂いでバットを振り下ろす。「お前のせいで……お前のせいでパパは密漁船に乗せられたんだッ……!」
はつねの即興執筆
強調したい文章がある時
文章内で特定のポイントや感情を強調したい場合、改行を用いるとその効果を増幅させることができます。重要な発言や意外な展開、感情の高まりなど、特別な注目を集めたい箇所には改行を使用するのも良いでしょう。
筆者がこのテクニックをよく使うのは「隠されていた事実を明示する時」や「ミスリードさせていた内容が実は違ったのでしたとネタばらしする時」などです。結構おすすめです。
セリフの途中で改行するのはアリ?
一般的には、セリフの途中での改行は避けるのが基本です。
ですが、特定の状況ではあえて開業する事で、効果的な演出をすることもできます。
例えば、会話の途中でキャラクターの行動を挿入する場合や、感情の変化を強調する場合などです。このような改行は、会話のリズムやキャラクターの心情を表現するのに役立ちます。
……と文章で言われてもわかりにくいと思うので、例によって簡単な例文をご用意します。
「ね、ねぇ……みかんとりんごならどっちが好き?」
はつねの即興執筆
「? それ聞いて何になるのさ」
「あなたのことを一ミリでも多く知りたいの。お願い、みかんかりんごならどっちが食べたい?」
「うん? さっきはどっちが好きかって聞いてなかった? なんで急に食べたいが出てきたんだよ――って、おい待て。お前いま体の後ろに何か隠し
「ごちゃごちゃ言ってねーでさっさと答えな‼」
僕の腹にはスタンガンが突き付けられていた。
相手の発言を遮る時などに使えるテクニックですね。上の例では改行して『遮り』を表現していますが、改行しなくても同様の効果を発揮することができます。
ちなみに地の文でもできます。筆者はよくやってます。
ゆらりと揺れる硝煙。45口径から立ち昇るそれが太郎の頬を掠める。
はつねの即興執筆
「ふん、こんなものか」
赤黒い穴をいくつもあけた目の前の肉塊へ侮蔑の目を向け、彼は踵を返した。
右手に握る拳銃からはもう硝煙は出ていない。そのことを確認した太郎は警察手帳をしまうように革ジャンの内ポケットへ黒鉄を忍ば
銃声が、太郎の鼓膜を突き抜けた。
いかがでしょうか?
本来であれば「忍ばせる」まで書いて一文を締めるところですが、ここではあえて改行を入れています。その後に続く文章でもわかる通り、最後の銃声は太郎にとっても想定外のものでした。もうお察しの通りだと思いますが、この強制的な改行は「想定外」を言外に表現することができるのです。
セリフ(会話文)を書く時の基本的な7つのポイント
セリフの書き方には、いくつかの基本的なルールがあります。
以下では、小説でセリフを書く時の基本的なポイントを7つご紹介します。
「で始め、」で終わる
セリフは通常、「(括弧)で始め、」(括弧)で終わります。これにより、セリフの開始と終了が明確になり、読者は会話の流れを簡単に追うことができます。
もっとわかりやすく言えば、セリフは「」に挟まれた文章ということになります。
セリフの行は一文字空けない
セリフを書く際には、行頭を一文字空ける必要はありません。これにより、セリフと地の文が視覚的に区別され、読みやすい文章の連なりを実現できます。
セリフの終わりに句読点は入れない
セリフの終わりには原則として句読点を入れません。これには、セリフ終了後に続く地の文との区別を明確にする役割もあります。
…が、筆者としては役割り云々よりも見栄えがかなり悪くなると思っています。
実際に以下の例文を見てみましょう。
花子が教室に足を踏み入れた途端、数百を超えるチョークが彼女に襲いかかった。
はつねの即興執筆
「ッ⁉」
踏み出した足を強制的に折り畳み、前傾姿勢になる花子。無数のチョークは廊下の窓に激突し、固められた石灰石が爆散してあたりへ吹き散らされる。
そうしている間にも次のチョークが彼女を襲う。だが花子に避ける力はもうなかった。前傾姿勢を崩してしまい、額から教室の床に突っ込んでしまったからだ。
散弾のように、それでいて鋼鉄の槍のような鋭さをも感じさせるチョークの雨は、花子の制服のあちこちに突き刺さる。肉体を避けるように刺さったチョークは、床に花子を縫い付けてしまった。
「くそ……っ!」
花子は辛うじて動く首を動かし、敵の姿を捉えようとした。
悔しさを滲ませる彼女の瞳に『敵』は静かに笑いかける。
「あら花子。そんなに床が舐めたいなら、あたくしの上履きを舐めさせてあげても構わなくってよ。」
最後ォ!と筆者なら絶叫する所業です。セリフ特有のスタイリッシュな見た目が一瞬にして消失し、どこか慣れない書き手のような印象さえ与えてくる句点と括弧のダブルコンボ。
セリフの最後には、できるだけ句読点は入れないのが無難です。
※ただし、これも原則であり絶対ではありません。どこまでいっても作者の好みによる部分ですし、セリフに持たせる意図などによってはこちらの方が効果的になる場合もあります。
セリフの途中で改行は(原則)しない
セリフの途中での改行は原則として避けます。これにより会話の連続性とリズムが担保され、読者がキャラクターの発言をスムーズに追うことができます。ただし、特定の効果を狙う場合は例外もあります。こちらは前述した通りですね。
セリフの中の「」は『』を使用
セリフの中で別のセリフを引用する場合は、『』(鍵括弧-かぎかっこ)を使用します。これにより、主セリフと内包されたセリフが明確に区別され、読者が混乱することなく会話を追うことができます。
セリフ内でのセリフの引用以外にも、強調したい言葉や単語も『』で囲まれがちだと筆者は思います。その小説でしか出てこないと予想される言葉などには、使用を考えてもいいでしょう。
「」の後は基本改行する
セリフを「」で閉じた後は、基本的に改行します。これをしないとセリフと地の文が視覚的に分離されないため、読みづらい文章群になってしまう場合があります。また、セリフごとの改行はキャラクター間の会話を明確に示します。
しかし、これはあくまでも原則です。次の項目でも説明します。
「」の後に地の文を続けても良い
セリフの後に地の文を続けることも可能です。これにより、キャラクターの発言とその直後の行動や感情をスムーズに繋げ、シーンに深みを与えられる場合があります。セリフと地の文の組み合わせは、物語の臨場感を高める効果的な手法の一つです。
まとめ
この記事では、小説執筆における改行の基本ルールとその応用テクニックを紹介し、小説内でのセリフの扱い方を解説してきました。例文も沢山準備させていただきましたので、迷ってしまった時などは参考にしていただけると幸いです。
当記事が読者の皆様の執筆活動をより良いものにできたのなら、これ以上ない幸福です。