小説の書き出しは命です
小説の第一印象は、書き出しで決まります。書き出しを魅力的に書くことができれば、読者をあなたの物語の世界へと簡単に引き込むことができます。この部分で「おっ、なんだなんだ……?」「この先何が起こるっていうんだ……?」と読者に思わせることができたら、もう作者の勝ちではないでしょうか。読者は惹かれた興味の正体を知るべく、続きを読み進めたいと感じるでしょう。
小説の書き出しとはいわば「命」。そう言っても過言ではないほど重要な要素なのです。
小説の書き出しを魅力的にするコツ
細かいコツやテクニックは後ほど紹介するとして、書き出しを魅力的にする最大のコツ。
それは「初っ端から盛大にかますこと」に尽きます。
小説の書き出しを魅力的にしなければ、読者の好奇心は刺激できません。言い換えれば、これからもっと面白くなるはずのメインコンテンツを読んでもらえないのです。作者としてこれほど悲しいことはないですよね……?
小説を開いた瞬間。最初の数行。その数瞬が読者を囲い込む最大の正念場でしょう。この作者と読者の戦に勝利するためにも、物語冒頭――つまり小説の書き出しは「最初から」「盛大に」「かます」ことが必要なのです。
小説を面白くする書き出しにはパターンがあった!
小説を面白くするための書き出しには、実はいくつかの効果的なパターンが存在します。これらのパターンを理解し適切に用いることで、作品の魅力を高め、読者をより惹きつけることが可能になります。
ここでは、9つのパターンを紹介したいと思います。
パターン1.謎の提示
物語の冒頭で謎を提示すると、読者はその解決を求めて読み進めます。不可解な状況や未解決の問題を描くことで、好奇心を刺激し、物語を先に進める瞬発力を獲得できるのです。この手法は、特にミステリーやサスペンスものに有効でしょう。
パターン2.恐怖の演出
恐怖を用いた書き出しは、読者の感情を強く揺さぶります。怖いシーンや不気味な描写を通じて、緊張感を生み出し、物語に強烈な印象を残します。これは特にホラーやスリラーのジャンルに適しています。
パターン3.反社会的な要素
反社会的な要素を含む書き出しは、読者のモラルや倫理観に訴えかけます。この手法は、物語に独特の風味を加えることができるため、読者の興味や議論を比較的引き出しやすいと言えるでしょう。
常識的に考えればダメなことをしでかしてしまう、あるいは望んでやってしまうキャラクターたち。彼らの行く末を見届けたいと思ってしまうのは自然な心だと思います。
パターン4.イベント系各種
大きなイベントや出来事から物語を始めることで、読者の関心をすぐに引きつけます。結婚式、葬儀、祭りなど、人々が集まる場面は特に効果的です。これにより、読者は物語の中の世界に素早く没入できます。
各種イベント系は我々の生活・世界に身近なものだからこそ、物語の世界に入り込みやすいのでしょう。一から百まで身近でなくても、なんとなく似ている共通点を探し出し脳内で補完するのが人間です。上手に活用していきましょう。
パターン5.性的興奮を含む
性的な要素を含む書き出しは、特に成人向けの小説(官能小説など)で効果的です。この手法は、読者の感覚を刺激し、物語への興味を高めます。ただし、この手法は慎重に用いる必要があり、物語の内容やターゲットオーディエンスに適していることが重要です。
たとえば超王道ミステリーを書きたいというのに、初手から男女のいちゃらぶロマンスが始まったら少しげんなりしてしまいませんか?そのシーンがよほど物語の核心に関係するならまだしも、やはりターゲットとなる読者層に適した書き出しのほうが望ましいかと思われます。
パターン6.闘争・ピンチ
物語の初めから主人公をピンチの状況に置くことで、読者はすぐに緊張感を感じます。この手法は、アクションやアドベンチャー小説に特に適しています。
創作論でもよく言及される内容かなと思います。とにかく最初から主人公をピンチに陥れておけ、みたいな。後先考えないピンチや闘争はどうかと思いますが、やはり緊張感のあるシーンは続きが気になりますし、キャラクターたちが死に物狂いで戦っている状況はエキサイト不可避だと筆者は感じます。
パターン7.セリフのインパクト
印象的なセリフで物語を始めることは、キャラクターの性格や物語のトーンを素早く示します。強烈なセリフは、読者の記憶に残りやすく、物語への興味を喚起します。特にドラマチックな展開に適しています。
正直、このパターンはどのジャンルにおいても有効打になりえると筆者は考えています。インパクトのある台詞は印象に残りやすいし、その内容が面白ければ(=笑える面白さではなく物語が隠し持つポテンシャルという意味で)やはり読者は読み進めるからです。
パターン8.人生の真実に言及
小説の書き出しで、人生の深い真実や普遍的なテーマに触れることは、読者の共感を呼びます。例えば、「人生は不公平だ」といった深い洞察を物語の初めに盛り込むことで、読者は自分自身の経験と関連付けて考えることができます。この手法は、読者に深い思索を促し、物語に対する興味を高めます。特に哲学的なテーマを含む小説や、人間の本質を探求する作品に有効です。
パターン9.意外性でかます
意外性を用いた書き出しは、読者を驚かせ、興味を引きます。予想外の展開やサプライズを冒頭に配置することで、物語に対する好奇心を即座に掻き立てます。例えば、突然の出来事やキャラクターの思いがけない行動は、読者に強い印象を残し、物語を一気に読む動機を提供します。この手法は、ジャンルを問わず様々な小説に適用可能で、読者の注意を引きつけるのに非常に効果的です。
【やってはいけない】小説の書き出しNGパターン
小説の書き出しで避けるべきは、読者を退屈させるような要素です。世界観の過度な説明、日常の平穏な描写、見どころの出し惜しみなどは、物語の勢いを弱め、読者の興味を損なう可能性があります。魅力的な書き出しは、これらのNGパターンを避けることが重要です。
以下、順番に解説します。
世界観の説明
小説の書き出しで世界観を詳細に説明するのは、読者を飽きさせる原因になることがあります。長い背景説明よりも、物語のアクションやキャラクターの動きを前面に出すことが重要です。世界観は、物語が進むにつれて自然に描かれるべきです。読者は物語を通じて、徐々にその世界に浸っていくことが理想的です。
平穏無事な日常
書き出しで平穏な日常を描くと、物語の緊張感が不足する恐れがあります。読者は、日常を超えた体験や冒険を求めています。平穏なシーンを用いる場合でも、それが後に起こる非日常的な出来事の前兆として機能するようにしましょう。日常の中の小さな異変が、物語の興奮を引き出すきっかけとなります。
見どころの出し惜しみ
小説の書き出しで見どころを出し惜しみすることは、読者の期待を裏切ることにつながります。読者は、物語の初めから魅力的な要素やユニークな展開を期待しています。強烈なキャラクターの登場や衝撃的な出来事を早い段階で提示することで、読者の好奇心を引きつけ、物語の深みに引き込みます。
書き出しで読者の心を掴む9つのテクニック
読者の心を掴む書き出しには、さまざまなテクニックがあります。主人公の登場、世界観や舞台の紹介、敵役の登場など、物語の核となる要素を効果的に提示することが重要です。説明文は必要最低限に抑え、文章にテンポを出し、情報を小出しにすることで、読者の関心を持続させます。地の文は短く区切り、魅力的な台詞やオノマトペを使って、物語を生き生きとさせましょう。
順番に解説します。
主人公を登場させる
小説の書き出しで主人公をすぐに登場させることは、読者が物語に感情移入しやすくなります。主人公の性格や状況を明確に示すことで、読者は物語の流れにすぐに没入します。主人公が直面する問題や挑戦を早い段階で紹介することで、物語に対する関心を高めることができます。
世界観や舞台の紹介
物語の舞台や世界観を初めに簡潔に紹介することで、読者は物語の設定をすぐに理解できます。しかし、詳細な説明は避け、物語の進行に沿って徐々に世界を展開することが重要です。舞台設定は物語の雰囲気やトーンを設定し、読者の想像力を刺激します。
敵役を登場させる
物語の初めに敵役を登場させることで、緊張感と興奮を生み出します。敵役の特徴や目的を明らかにすることで、物語に即座に対立とドラマをもたらします。敵役は物語の動力となり、読者が主人公の成功を応援する理由を提供します。
説明文は必要最低限に
小説の書き出しでは、説明文を極力短く保つことが肝心です。読者の想像をかき立てるためには、物語の背景や環境を最小限にとどめ、物語の進行に必要な情報のみを提供することが効果的です。このアプローチにより、読者は自らの想像で物語を補完し、より深く物語に没入することができます。
文章にテンポを出す
読者の関心を維持するためには、文章にリズムとテンポをつけることが重要です。短くてリズミカルな文は読者を惹きつけ、物語をスムーズに進行させます。変化に富んだ文体は、物語のダイナミズムを高め、読者の注意を引き続けます。
情報は小出しにする
物語の詳細をすべて初めに明かさず、徐々に情報を提供することで、読者の好奇心を刺激します。謎や疑問を残すことで、読者は次の展開を楽しみにし、物語に夢中になります。情報を小出しにすることは、物語の魅力を高め、読者の興味を持続させる効果的な手法です。
地の文を短く区切る
小説の書き出しでは、地の文を短く区切ることが読者の理解を助けます。短い文は、情報をコンパクトに伝え、読者が物語の流れに追いつきやすくなります。この技法は、特にアクションや速いテンポの物語に適しており、読者をすぐに物語の中へと引き込む効果があります。
魅力的な台詞で印象付ける
物語の初めに魅力的な台詞を配置することで、キャラクターの個性や物語の雰囲気を素早く伝えることができます。印象的な台詞は、物語のトーンを設定し、読者の記憶に残りやすいです。キャラクターの心理や感情を効果的に表現することで、読者の関心を引きます。
オノマトペを使う
オノマトペ(擬音語や擬態語)を使用することで、物語に生き生きとした感覚を加えることができます。具体的な音や感覚を描写することで、読者は物語のシーンをよりリアルに感じ、没入しやすくなります。オノマトペは、特に感覚的な描写が重要なシーンに効果的です。
ただし、乱発はオススメしません。オノマトペはどうしても幼稚な印象を抱かせてしまうことが多く、それを苦手とする読者も一定数いるからです。乱発は避け、ここぞという時に用いるのが効果的です。
書き出しが印象的な小説
ここまで、小説の書き出しテクニックやNGをご紹介してきましたが、やはりプロの筆を体験することが一番身になるのではと筆者は考えます。
そこで、このセクションでは、多くの読者でも頷くに違いない珠玉の書き出しを3つご紹介したいと思います。これがプロの書き出しか……と思わず唸ってしまうはず。早速見ていきましょう。
ポロメリア/Cocco
「ドスンッッ
明らかにロマンチックな音ではなかった。
飛び降りた私の意識は、─────」
ポロメリア/Cocco
はい、この先が気にならない人は多分いません。
どう頑張っても次のページへ行ってしまうと思います。
少女/湊かなえ
子どもなんてみんな、試験管で作ればいい。
少女/湊かなえ
ひょあ……ッ!
筆者は今でも覚えています。初めてこの書き出しを目にした時、全身が粟立ったことを。背筋に冷たいものを感じ、思わず小説を閉じてしまったことを。
雪が降る/藤原伊織
人を殺した人間には、かつて一度しか会ったことはない。ちょうど四十歳という年齢でひとり。それでも、めったにない経験だろうな。とくにおれたち平凡なサラリーマンにとっちゃ。それがきょうは、あやうくふたりめを見るはめになるところだった―ー。
雪が降る/藤原伊織
短編集に収録された作品『台風』からの引用です。
ふたりめを見そうになった=まだ見ていないが、見られそうになった存在は果たして黙って待っているか……? 考えただけで恐ろしい、そして素晴らしすぎる書き出しだと思います(偉そうに批評しているみたくなってしまい申し訳ございません……!心の底から尊敬の念でいっぱいです……!)。
書き出しや冒頭が思いつかない時は?
小説の書き出しや冒頭部分が思いつかない時は、いくつかの方法でインスピレーションを得ることができます。
まず、お気に入りの小説を読んで、その書き出しを分析してみましょう。どうしてその書き出しが効果的なのか、どのような要素が読者の興味を引くのかを理解することが重要です。
また、キャラクターや設定について自由に書き留めるブレインストーミングを行うと、新たなアイデアが浮かぶことがあります。他にも、日常の出来事や個人的な経験からヒントを得ることも有効です。
重要なのは、書き出しを完璧にする必要はなく、書き始めることから始めることです。