【鬱小説の代表作まとめ】文豪が描く鬱小説をまとめてみた。

おすすめ本

鬱小説にこそ名作あり

鬱小説は、悲劇的な結末や暗いテーマを扱う小説のジャンルです。読後に後味の悪さや憂鬱な気分を残すことから苦手とする人も多いですが、実は多くの名作が鬱小説として知られています。

その理由の一つは、鬱小説が人間の深層心理に訴えかけるからでしょう。鬱小説は、人間の暗い側面や社会の矛盾を鋭く描き出し、それを的確かつ魅力的に物語の中に忍び込ませています。そのため、読者は自分の内面に潜む感情や、社会の不条理に嫌でも直面せざるを得なくなります。その結果、読者は鬱小説からマイナスな感情を抱きながら、それでいて深い感動や共感を得られてしまうわけです。

暗いからこそ美しい

夜空に浮かぶ星が美しいのは、星単体が輝いているからでしょうか?

もちろんそれも答えの一つです。しかし筆者はこうも思います。夜空が真っ暗だからだ、と。もしくは星を美しいと思える心を有しているからだ、とも。

鬱小説に潜む美しさはこれと似ています。物語として単なる悲しみや絶望を表層化しただけではなく、人間の深層心理に突き刺さる感情や、そこで具現化される問題の本質、あるいは人という生き物が抱えるモノの奥深さなどを小さな小さな光として定義しているような気がするのです。

ぱっと見は、真っ暗な世界で話は進んでいきます。しかしどうでしょうか。そこには希望など、本当に存在しえないのでしょうか……?そのような問いに答えてくれるのが鬱小説の一つ、良い所だなと筆者は思います。

救いのなさが人間的

現実世界には、大抵救いはありません。ハッピーエンドは幸せに終わることではなく幸せが終わることです。

我々は往々にして、悲劇や不幸に見舞われれば、たちまち世界が自分たちを見放したかのような錯覚に陥ってしまいます。

これは誤りです。
なぜなら錯覚ではなく事実であり現実だから。

悲劇や不幸は誰にでも起こり得るもの。鬱小説が描く救いのなさとは、そのような現実の厳しさを表現するものであるのかもしれません。

名作も多い

鬱小説には、多くの名作があります。その代表的な作品としては、以下のようなものが挙げられます。

夏目漱石「こころ」
太宰治「人間失格」
フョードル・ドストエフスキー「罪と罰」
湊かなえ「告白」
桜庭一樹「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」

誰もが知っている……という作品群でしたらこの辺りでしょうか。ちょっと興味がでてきたかも!と思った方は、さっそく本屋か図書館かAmazon・楽天へGoですね。感想お待ちしております。

文豪が書いた鬱小説まとめ

文豪が書いた、なんて言っていますが、彼らが書く作品は大抵鬱小説に近しいジャンルになりそうな気がしてならない筆者です。

ともあれ、文豪たちは多くの名作を残し、その中には暗いテーマを扱う鬱小説ももちろんあります。

ここでは、文豪が書いた鬱小説の中から、代表的な作品をいくつか紹介します。

「盲獣」/江戸川乱歩

あらすじ:
《盲獣》展覧会場に相容れぬ雰囲気を醸す人影を見た水木蘭子は、魅入られたかのように盲獣の魔手に搦め取られていく・・・・・・《地獄風景》私財を蕩尽した大遊園地に集まる、名にし負う猟奇の紳士淑女たち。ひとり、またひとりと増える犠牲者を後目に殺人遊戯はエスカレートしていく。

『BOOKデータベース』より引用

感想:読んでいて背筋が何度もぞわぞわしました。もう乱歩先生が犯人としか思えない。そう思わされるくらい人間という生き物の”業”を描いていると思います。

「地獄変」/芥川龍之介

あらすじ:
大正7年、芥川はすでに文壇に確たる地歩を築き、花形作家としての輝かしい道を進んでいた。愛娘を犠牲にして芸術の完成を図る老絵師の苦悩と恍惚を描く王朝物の傑作「地獄変」、香り高い童話「蜘蛛の糸」ほか、明治物「奉教人の死」、江戸期物「枯野抄」など溢れる創作意欲の下に作品の趣向は変化を極めている。

『BOOKデータベース』より引用

感想:芸術が孕む無限の可能性と、人間としての限界。あなたはどちらを取りたいですか?
……なんて自問をしてしまうような小説です。きっと我々は何かを捨てなきゃ生きていけないように設計されている気がする。……気がするだけだから!

「こころ」/夏目漱石

あらすじ:
この小説の主人公である「先生」は、かつて親友を裏切って死に追いやった過去を背負い、罪の意識にさいなまれつつ、まるで生命をひきずるようにして生きている。と、そこへ明治天皇が亡くなり、後をおって乃木大将が殉死するという事件がおこった。「先生」もまた死を決意する。だが、なぜ…

『BOOKデータベース』より引用

感想:夏目が描く人間の心に新旧などない。ただそれを痛感させられる小説です。少なくとも先生の独白には、2023年を生きる我々にも深く共感できる心情が存分に含まれています。これを100年前に書いているの、まじ……?

「人間失格」/太宰治

あらすじ:
「恥の多い生涯を送って来ました」。そんな身もふたもない告白から男の手記は始まる。男は自分を偽り、ひとを欺き、取り返しようのない過ちを犯し、「失格」の判定を自らにくだす。でも、男が不在になると、彼を懐かしんで、ある女性は語るのだ。「とても素直で、よく気がきいて(中略)神様みたいないい子でした」と。ひとがひととして、ひとと生きる意味を問う、太宰治、捨て身の問題作。

新潮文庫より引用

感想:欠落も含めて人だけど、それを許せないのは他でもない自分なんですよね。でも、許せていないのは案外自分くらいで、周りの人から見てみればまた全然違った印象を持たれていたりするものです。……などということを考えました。人間って複雑です、本当。

個人的な文豪の鬱小説オススメ2冊

さて、ここまでは文豪の代表作をご紹介してきました。

しかし筆者は思います。読者であっても著者であっても、こと小説に関しては、あなたにとっての文豪が誰であるかを見つけられるかが最上の小説体験をできるか否かだと。

世間の決めた、あるいは歴史が証明した文豪という名にひれ伏す必要はありません。大作であっても名作であっても世界がそうだと認めていても無関係です。あなたはあなたにとっての文豪を見つければいいのです。

最後は筆者にとっての「文豪だなぁ」と思う二人の作家さんおよび作品をご紹介し、本記事を締めくくりたいと思います。

「火車」/宮部みゆき

あらすじ:
休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して――なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか? いったい彼女は何者なのか? 謎を解く鍵は、カード社会の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。山本周五郎賞に輝いたミステリー史に残る傑作。

新潮文庫より引用


出ました、「火車」。

こちらの小説、実は筆者が宮部作品の中で一番初めに読了した物語でした。初めて最後のページをめくり終えた時、余韻が残って頭から離れなかったのを今でも鮮明に覚えています。

続編出たらいいのになぁと思いながらネットで情報を探したりもしたのですが、当の宮部みゆき様は「続編を書くつもりはない」と発言していたらしく、仕方がないとはいえかなり残念でした。

火車が導く物語の奥深さは、言葉を尽くして説明するよりも体験した方が絶対に良いと筆者は思います。謎が謎を呼び、繋がりはいとも簡単に断ち切られ、何度も何度も読み返したくなる。

そんな小説です。

「黒い家」/貴志祐介

あらすじ:

若槻慎二は、生命保険会社の京都支社で保険金の支払い査定に忙殺されていた。ある日、顧客の家に呼び出され、期せずして子供の首吊り死体の第一発見者になってしまう。ほどなく死亡保険金が請求されるが、顧客の不審な態度から他殺を確信していた若槻は、独自調査に乗り出す。信じられない悪夢が待ち受けていることも知らずに…。恐怖の連続、桁外れのサスペンス。読者を未だ曾てない戦慄の境地へと導く衝撃のノンストップ長編。

『BOOKデータベース』より引用


生命保険を題材にしたミステリー要素強めの作品です。

世界観に慣れるまでには少し時間を要するかもしれませんが、この小説の真価は事件の概要を知り大枠を理解しはじめた頃の後半にあります。

スローな立ち上がりとは打って変わって、加速度的にギアを上げていく物語と、それを追い駆けるように溶け込んでくるホラー要素。ミステリーと混ざり合うことで一気にハラハラドキドキのクライマックスまで読み進めることができるでしょう。

まとめ

鬱小説という言葉が独り歩きすれば、なんだか不健全な読み物という印象になりやすいと思います。

ですが蓋を開けてみれば、中身はこれでもかというほど人間らしさを追求し、ありのままを真摯に描いた作品が多いことに気がつくはずです。

気になるものがございましたら、ぜひ選書の参考にしてくださいませ。

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